OTSUKI TSUYOSHI
チームと選手個々の成長
結果で示すべき試合
みなさん、こんにちは。
先週のベガルタ仙台戦では、6試合ぶりにホームで勝つことができました。しかも相手のゴールネットを6回揺らすことができ、みなさんに喜んでいただけたのではないかと思っています。
試合の主導権をほぼ握ることができ、シュート数は同じでもシュートのシチュエーションや枠内シュートの数が大きく違っていたと思います。また前線からボールを取りに行くという姿勢を最後まで貫くことができました。
今季、攻勢を取っている立ち上がりの時間帯になかなか点が取れないことが多かったのですが、この試合では開始9分の早い時間に、良いコンビネーションから先制することができました。ボランチやサイドハーフの選手がエリア内に入ってチャンスを作る回数が増え、スムーズになってきたと思います。
また高い位置でボールを奪ってから、速い攻撃を仕掛けるという、ずっと目指してきたことが形になりました。前半3-0というのはリーグ戦再開後初めてですが、それで緩むことなく、後半さらに攻撃の部分を改善し、得点を重ねることができたと思います。
ほかにも得点チャンスは多くあったので、個々を見ればそこで決められなかったのは残念でしたが、ここ2試合失点の少なかった仙台から6点を挙げたことは良かったですし、何よりこの埼玉スタジアムで多くのゴールを挙げたことが非常にうれしかったです。
もちろん、これで満足している状況ではありません。
リーグ戦の残りは10試合になりました。ここまでチームとして成熟してきたものもありますし、個々に成長を見せている選手も多いと思います。しかし、やってきたことが結果に表われる試合を続けていかなくては、チーム力が上がったと言いきることはできません。
今日の相手、セレッソ大阪は試合運びがうまく、下位との対戦ではしっかりと勝ち点3を取ってきたチームです。我々もアウェイの試合で敗れています。
振り返れば、そのC大阪戦をはじめ、ちょっとしたミスから失点して落としている試合が目立ちます。人間がやることであり、サッカーは特に足を使うスポーツですから、ミスは起こります。個人的にはそのミスを少なくしていかなければなりませんが、起きてしまったミスを失点にしないように、みんなでカバーをしなければいけません。その点についても、徐々に良くなってきていると思っています。
積み上げてきたものを結果で示せるかどうか。本日はその指標となる試合です。
個人も組織も成長しているという成果を、ぜひともお見せしたいと思います。
筑波大学からソニー仙台FC(JFL)入りし、選手としてプレーした後、指導者の道へ。宮城県富谷高等学校サッカー部監督、筑波大学コーチ、水戸ホーリーホックコーチ、大宮アルディージャコーチを経て、2004年から浦和レッズ強化本部スタッフに。06年から10年まではコーチとしてリーグ優勝やACL制覇に寄与した。11年はベガルタ仙台のヘッドコーチを務め、12年から浦和レッズ強化部スタッフに復帰。13年から浦和レッズ育成ダイレクター兼ユース監督を務め、18年4月2日、トップチームの暫定監督に就任した。監督在任中はリーグ戦3勝1分け、ルヴァン杯1勝1分けの無敗で、オリヴェイラ監督にチームを引き継いだ。その後19年3月までヘッドコーチを務め、同年5月28日、1年1ヵ月ぶりに浦和レッズの監督に任じられた。今季も引き続き指揮を執る。
前節の結果に浮かれることなく
やってきたことをやり続ける
○仙台戦は今季6試合目の無失点試合、ホームでは4試合目だった。6-0とスコアは圧勝だったが、シュートは互いに15本と同じだった。
「試合が終わって見たデータと、自分たちが試合中に感じていたものとでギャップがありました。相手がボールポゼッション率で上回っていたというのは、やっていて感じませんでした。
試合中に思ったのは、こちらが高い位置でボールを奪って速い攻撃につなげる場面が多いな、ということです。それは監督からも言われていて、自分たちが目指していたことだったので、ブレずにやってきたことがやっと実を結んで結果に表われたな、という感覚でした」
○前線や中盤でよくプレスが掛かり、仙台を相手陣内に閉じ込めるような時間帯が、何度もあった。仙台は自陣でのボール保持が長かったと言える。
「そうですね。このところ危険なシュートが来る回数が減ってきたと思います。チームの戦い方が安定してきて、出場した選手が役割を果たしてくれていると思います」
○後半34分に仙台の長澤 駿のヘディングシュート、終了間際に関口訓充のシュートを止めて「NICE SAVE!」が出た。
「長澤選手が途中から出てきて、少ないピンチで失点してしまうというのが嫌だったので特に注意はしていました。最後の訓くんのシュートは、ドリブルのときに体勢を少し崩していたので、それほど良いシュートは来ないだろうなと余裕を持てていました」
○攻撃を後ろから見ていて良かったところは。
「これまではフィニッシュが枠に行かなかったり、打てるところで打たなかったりしていましたが、仙台戦は高い位置でボールを取れていたこともあり、相手が態勢を整える前に攻撃を仕掛けられたので、ビッグチャンスになったりゴールで終わらせることができたりしていました。ファン・サポーターの方々もようやく、これが浦和レッズだ、というサッカーを見て、これまでのうっぷんを晴らせてもらえたのではないでしょうか」
○前半22分、西川からのロングボールを汰木が相手のDFラインの裏で受け、ドリブルでゴールに迫る場面があった。
「来たー!と思いましたね。あれは見ている人を楽しませるプレーだったと思います。康也も完璧なトラップをして最高の抜け出しをしました。でもGK目線で見ると、あのような状況で相手GKはしっかり足を運んで、シュートする直前によく手が届いたと思いました。素晴らしかったと思います。あれは(決められなくても)仕方ないと思います。
その後、慎三がPKをもらったシーンは、彼の経験と余裕、駆け引きの結果だと思います」
○終了のとき、両手を突き上げて雄叫びを上げていたが。
「やっとホームで勝てたこと、自分たちがやってきたことが結果で表せたことが一番うれしかったです。6-0という結果に浮かれることはなく、やり続けたいです」
○名古屋戦から鳥栖戦の間に、チームに何か変化はあったのか。
「鳥栖戦の後ですが、選手ミーティングをやれたのは良かったです。僕はもともとミーティングが好きな方ではないのですが、外国籍選手や大槻監督からも話があって、選手だけでかしこまらずにやろうということになりました。
あとはタイミングを自分が決めるだけで、名古屋戦の後の方が時間はあったのですが、負けてミーティングをやるというのは嫌なので、勝ってからやった方がいいと思っていました。
本当にポジティブな話がみんなから出てきました。今季は最初試合に出ておらず、いま出ている選手たちがいますが、そういう選手たちが自分の経験を踏まえて、チームが良い方向へ向かうために良い話をしてくれました。30分くらいかなと思っていたのが1時間ぐらいかかったのですが、結束がより固まった感じがして、本当にやって良かったです」
○鳥栖戦は後半21分のPKを西川が抑えたことが勝利につながった。
「あのPKの後で、このまま失点ゼロで終わりたいなというのと、ワンチャンスに決めて勝ちたいという気持ちがより強くなりました。でも欲張らずにまず守備のことを考えていたのですが、最後にチャンスを生かせたのは、やってきた自分たちのハードワークが結果に出たと思います。あのスタジアムでなかなか勝てていないので、無失点に抑えられたというのは特別な思いがありました」
○鳥栖戦から3試合負けなし。これを続けていきたい。
「僕たちの目標はブレていないですから、得失点差プラス10、ACL出場圏内というのはまだまだあきらめていません。上位のチームとの対戦もまだ残っていますから、達成できるかどうかは自分たち次第だと思います。仙台戦の勝利で周りの見方も変わってくるでしょうし、ハードルが上がるかもしれませんが、乗り越えていきたいですし、それを楽しみたいです。
C大阪戦も、これまでどおり球際で戦う部分、切り替えの速さ、セカンドボールを奪うところは必ず相手を上回りたいです。アウェイの試合では表現しきれなかった部分なので、そこはレッズは前と違うなと思わせたいです。
そういう意味で良い相手との対戦で、自分たちの力を試せると思います」
ドリブルでの攻め上がりが
チームに勢いをもたらす
○名古屋戦から4試合連続先発。仙台戦は前半36分、FKを直接決め今季リーグ戦初ゴールとなった。
「柏戦でも、似た位置からFKを蹴りましたが、そのときよりフィーリングが良かったので決めることができたと思います。
仙台戦では守備の面でも良い仕事ができたと思っています。相手から何度かボールを奪いましたし、カバーリングや相手のパスコースを切ることもやれていました。試合開始からしばらくはそうでもなかったのですが、得点してから良くなってきたと思います」
○後半22分にはゴール左でルーズボールを拾うとゴールライン近くまでえぐって折り返し、レオナルドのゴールをアシストした。
「相手はまさかあそこまで奥深く行くとは思っていなかったのではないでしょうか。でもライン際までコースが見えたので、狙いどおりです。
あのプレーでゴール前の選手と合わせることは練習でもやっていますし、ほかの試合でもそういうシーンを作れています」
○後半終了間際に交代するとき、大きな拍手が送られていた。
「もちろん、みなさんの拍手はしっかり聞こえていたので、僕も手をたたいて応えました。ファン・サポーターのみなさんが僕を受け入れてくれたことはうれしいことです。ホームで前回のような勝利を味わえたのはファン・サポーターのみなさんにとっても自分にとっても特別な時間でした」
○鳥栖戦で汰木の決勝点をアシストしてから3試合連続ゴールに絡んでいる。鳥栖戦の終了間際、杉本からボールを受けてからのプレーは。
「まずはファーストタッチでボールをしっかりコントロールすることを心掛けました。それがうまくできないと全てが無になってしまいますから。
ファーストタッチが前の方に長めに出せたので、一瞬顔を上げる余裕ができました。そこで康也が走り込んで来るのが見えたので、そこを狙ってパスを入れました。
康也は、あの時間帯であそこまでしっかり走り切れたことが素晴らしいです。康也が走り込んで来なければ、あの結果にはならなかったかもしれません」
○柏戦でも逆サイドの汰木を狙ったクロスが2度ほどあった。
「康也とは常に話し合っていて、お互いにボールを持ったときには逆サイドのお互いを見るということは言っています」
○マルティノスと汰木、共にチームへの貢献度が高くなっている。
「自分や康也のようなサイドハーフが、スペースに出たボールを走って収めていることやドリブルで攻め上がることが、チームに勢いを持たせていると思います。ドリブルはボールを失う可能性もありますが、そのチャレンジを続けることは非常に重要だと思います」
○C大阪には今季チームが公式戦で2敗しているが、マルティノスはいずれにも出場していない。
「C大阪は上位のチームですし、試合をしっかりと締めるのが上手ですし経験豊富な選手も多いので試合をコントロールするのがうまいと思います。トリッキーなこともやってきますが、チャンスを作るのがそれほど多いわけではないと思います。
もしまた先発で出ることができれば、良いパフォーマンスを発揮したいです。このところアシストなどの結果を多く残しているので、次も続けたいです」
得点王まだあきらめていない、ゴールを挙げてチームに貢献する
○仙台戦で11試合ぶりにゴールを挙げ、リーグ11得点となった。後半8分に途中出場して4分後の、GKをかわしたシュートは惜しくも右ポストに弾かれた。
「前半の早い時間帯に、(汰木)康也がGKをかわそうとして止められた場面がありました、それを避けてコースが空いていたのでシュートを打ちましたが、不運でした。自分でも打った瞬間に入ったと思いました。しかしプレーが悪かったわけでも枠を外したわけでもないので、嫌な気分にはなりませんでした」
○22分にマルティノスの左折り返しに合わせて今季10点目、41分には橋岡からの右クロスを収めてこの試合2点目を決めた。
「マルティノスが深いところまで行ってそこからの折り返しに合わせるというのは練習でやっています。練習の成果が出たゴールでした。
橋岡はたぶん、僕の奥にいた康也に向けたクロスだったと思いますが、僕がそれをインターセプトしてしまいました(笑)。身体の後ろに来たボールでしたから少し難しかったですが、その位置でのトラップは得意とするところです。自分の技術を生かせたゴールだったと思います。」
○昨年も一昨年も10試合ゴールがないことはなかった。こういう時期の乗り換え方はどうしているのか。
「昨季までたしか4試合ノーゴールが最長でしたから、自分のキャリアの中で一番長くゴールがない時期でした。FWとしていつも点は取りたいので、取れていない時期は悲しい気持ちにはなりましたが、だからと言って何か特別なことはしていません。FWには点が取れる時期、取れない時期があります。取れなかった時期はチャンスの数自体が少なかったと思います。ですから自分のコンディションと精神状態をしっかり保って、チャンスが来たときにしっかり決められる準備をするだけでした」
○J1でまず2桁のラインに乗せた。これからまた量産していける実感は。
「もちろんあります。出場した試合では毎回決めたいという気持ちがありますし、それによってチームの勝利に貢献したいと思っています。公式戦で13ゴール4アシストしていますが、悪い数字ではないと思います。さらに積み重ねていきたいです。
今季は(柏の)オルンガにとって非常に良いシーズンになっています。それは彼の能力の高さですから讃えたいと思っています。昨季はJ2の得点王争いでオルンガに追いかけられ、もう少しで最終節で追い付かれるところでした。今季は逆に僕が追いかける立場です。残り10試合、チームにしっかりと貢献して、得点王になることもあきらめてはいません」
○FC東京、名古屋ら、シーズンの前半戦で負けた相手に2敗目を喫している。C大阪にはぜひリベンジしてほしい。
「ホームのFC東京戦や名古屋戦も悪い出来だったとは思っていません。良いプレーはできていましたが、相手ゴール前でのチャンスが多く作れていなかったと思います。仙台戦は、それまでの流れを生かして多くのチャンスを作れていました。これからもやり方を変えず、多くのチャンスを作ってゴールを決めていきたいです」
PREMATCH DATA
清尾 淳 ● せいお じゅん
『波乱上等』
成績が中位から動かない。
消化試合数に最多で5試合もの差があるので暫定順位だが、17チームとの対戦がひととおり終わるあたりから、浦和レッズはずっと8位や9位が続いている。
24試合を終えた時点での成績は11勝4分け9敗だが、レッズより上位または下位(10月21日終了時)のチームとの勝敗はどうなっているだろう。まとめると、上位の8チームに対しては2勝2分け7敗、そして下位の9チームとは9勝2分け2敗。上位には分が悪く、下位にはまずまず勝っている、という傾向がかなりはっきりしている。だから中位なのだろうが。
2回の対戦を終えたのは7チームで、FC東京と名古屋に2敗しているのは残念だが、仙台には2勝目を挙げ、前回負けた柏にはドロー、引き分けた清水と鳥栖には勝利と、少し前進してようにも見える。しかし前回勝った横浜FCには借りを返されており、トータル3勝1分け3敗。ここでも「中ぐらいの成績」だ。
Jリーグでは、開幕時の人気が下火になり経営危機のクラブが増えてきた97~98年に「身の丈にあった」という言葉がよく使われるようになった。
収入規模を大きく上回るような設備・人的投資や、野放図な経営を戒めたものだ。
人が暮らしていくとき、あるいは会社を経営するとき、「応分」とか「身の丈」を知ることは大事だと思う。だけど、その範囲にとどまるだけでいいのか。
「これだけの収入しか見込めないから、これだけのことしかできない」というのは真っ当なやり方に見えるが、「ない&ない」の発想からはポジティブな考えが出てこない。まずは「いま見込めるこれだけの収入で、どれだけのことができるか」と、ややスタンスを変え、さらに「いま自分たちに必要なこれこれをするために、収入増も含めてどう工夫するか」という「する&する」の発想に転換していきたい。言うは易し行うは難しだが、少なくとも閉塞的な気分から脱却して前向きになれるはずだ。
チームはもちろん「身の丈」にとどまっていてはいけない。
いまの順位は、たしかに力の差を反映したものかもしれないが、それは「これまで」の力の差であって、今後の順位を決めるのは「いま」と「これから」の力だ。「身の丈」よりも上を目指すことで身の丈を伸ばしていくことができるはずだし、実際ここまで伸ばしてきたものがある。何よりサッカーでは、力の差がそのまま結果になるわけではない。
C大阪に対してしっかりと、今の順位にあわない結果を出そうではないか。
さすがに「ジャイアントキリング」はなくても、「波乱」や「番狂わせ」とは言われるかもしれない。「波乱」けっこう、「番狂わせ」上等だ。
きょう勝つことで、いまのレッズの「身の丈」がどれほどか示し、さらに伸ばしていくスタートにしよう。
★編集後記。昨年も一昨年も、この時期には上位にいなかった。だが24試合消化時点で比べてみると、2018年が勝点32(9位)、2019年は勝点30(11位)と、過去2年より今季は多くの勝ち点を取っている。そして「これから」の違いを予測する材料の1つが、2018年は監督が指揮を執り始めて約4ヵ月、2019年は約3ヵ月だったのに対し、今季は約10ヵ月経っていることだ。自粛期間を差し引いても、ここまで継続して積み上げてきたものがモノを言い始めるころだ。(清尾)